各チームがマシンをイチから製作する自動車競技というのは、実は数が少ない。F1はその代表だが、他に思いつくだろうか?
学生フォーミュラは、まさにその中の1つ。学生によるF1というべき競技で、初めて見れば、その出来栄えにあなたは必ず驚くはずだ。
その学生たちのものづくりコンペティション「学生フォーミュラ日本大会2022」が9月6~10日に、静岡県の小笠山総合運動場(エコパ)で開催された。
学生フォーミュラ(フォーミュラSAE)とは?
学生フォーミュラとは、大学生、専門学生が1台のフォーミュラカーを製作し、その製作過程から走行性能までを競う競技だ。
審査は旋回コース、加速コースそしてミニサーキットのようなコースを走行する動的審査と、プレゼンテーション能力やマシン設計について評価する静的審査があり、その合計点で総合順位を争う。クラスは内燃エンジンのICVクラスと、電気モーターを用いるEVクラスの2種類で、今大会はEVクラスに日本勢過去最多の14チームがエントリーした。
走行競技が行われる大会は実は3年ぶりで、大きな期待と、3年というブランクによる不安の中で競技は進行していった。
今大会は #6京都工芸繊維大学が圧勝。強さを見せつけた
3年ぶりの開催だけあって、前々から波乱が予想されていた。学生たちはコロナ禍の緊急事態宣言を受けた学校からの「活動制限」で、とにかく設計製作が難航していた。また、大会やマシン製作の経験をしたことがあるメンバーが卒業してしまったこともあり、そもそもほとんどがゼロからの活動となった。
そのため、多くのチームが「車検」の通過に苦しみ、動的種目に進めないケースが多かった。主に4項目の車検があるが、マシンがレギュレーションに準拠しているかを確認する技術車検・電気車検や、ブレーキがロックするまで効くかをチェックするブレーキ試験で躓くチームが多かった。車検のやり方の伝承不足、そして事前の走行機会不足などが影響したようだ。特に、EVクラスに関しては動的競技のデッドラインに間に合ったのはたったの2台だった。
そんな中、16,17年の覇者である京都工芸繊維大学はこの大会を支配した。今年はマシンを日本一早くシェイクダウンし、その後のテストランでも速さ、安定感ともに群を抜いていた。間違いなく今大会の優勝候補だろうと目されていた。
結果は、静的競技はすべて1位、走行競技に関しては3種目で1位を獲得し、総合成績では2位以下に150ポイントもの差をつけた。ここまでの大差での優勝はこれまでにないものだった。
チームリーダーの吉田健悟さんは「チームとして、各々が全力を尽くせました。一人エースではなく全メンバーが責任をもって取り組めたために、良いマシンができ、それが優勝につながったと思います」と振り返っている。
上位には新しい顔ぶれが相次いだ
今大会の注目点としては、上位チームに新しい顔ぶれが相次いだことがあげられる。
まず、ミニコースでのタイムアタックである「オートクロス」の上位6チームは「エンデュランス・ファイナル6」という注目枠になるわけだが、その6校は京都工芸繊維大学、名城大学、岐阜大学、富山大学、日本自動車大学校、早稲田大学。このうち岐阜大学、富山大学、早稲田大学の3校は初のトップ6入りとなった。
総合順位でも、2位京都大学や4位千葉大学はその強さを維持してきた形だが、3位日本自動車大学校や5位日本工業大学、6位富山大学、7位工学院大学は過去最高の順位を記録した。特に日本工業大学や富山大学は、前回大会からそれぞれ+23位、+24位のランクアップ、大躍進だ。
EVクラスに関しては、クラス4連覇中だった名古屋大学が前述の通り不振だったこともあり、静岡理工科大学がクラス優勝を飾った。このクラスに関しては、車検を通過し動的競技に参加できたチームがこのチームとトヨタ東京自動車大学校のみだったため、競合が少ないチャンスにEV古参のチームが返り咲いた形だ。
ニューカマーも併せて、上位に入ったチームは、いずれもシェイクダウンをした日が早かったのが特徴的だ。緊急事態宣言の影響でクラブ活動が制限され、どのチームもマシン完成が遅れる中で、夏前までにシェイクダウンを果たせたチームが上位を手にしたイメージだ。トップ6チームはまさにその典型で、いずれも6月中には走行可能な状態まで仕上げていた。
来年はさらに激戦になるか
学生フォーミュラに携わる方々にとっては、3年前の日常が戻ってきたわけだ。さらに、来年の大会は優勝争いが激化することが予想される。
1) チーム内部の安定
今年は大会経験者がおらず、ほとんど手探りのなかやってきたが、今大会でそれは解消された。大会に向けてどう、どのようなマシンを作っていけばいいかを学生たちはつかんだはずだ。彼らが知見をどうまとめるかに注目したい。
2) 時間的制約の解消
最近、世界はコロナ禍からの脱出に向かっている。集団での活動に対して緩和がなされてきており、それは学生においても同じだ。今年の冬は、制限少なにマシン製作に取り組めるはずだ。
そして今大会は、実は”オフシーズン”というものが短かった。例年は9月の大会が終わるとすぐに新チーム発足という流れになる。しかし、2021年は”公式記録会”という動的競技の走行会があり、その後に新チーム発足という場合が多かったため、多くのチームは普段より2か月活動期間が短かった。
今年は、もうすでに続々と新チーム発足の知らせが届いている。来大会はどのチームも準備万端で登場するだろう。
3) 海外チームの参戦
今大会の場合、年明け早々に海外チームの受け入れ断念が発表された。そのため、海外チームは当然現れなかった。
ただ現状況が続けば、来大会には海外チームがやってくることが予想される。かつて総合優勝を飾るなど、日本大会を席巻したこともある黒船が襲来すれば、争いが激化することは間違いない。
学生たちの青春の1ページ、ぜひ追ってみては?
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