学生フォーミュラ日本大会で起きた出来事をピックアップしていくこの企画。
日本大会2022からもう2か月半がたちました。この企画の最後に、山梨大学「Yamanashi Formula R&D(YFR)」と東京都市大学「Mi-Tech Racing」の間でなされた燃料ポンプの受け渡しという、学生フォーミュラという文化が垣間見えるお話です。
YFRのICV挑戦最後のエンデュランス、トラブルを打破し滑り込みで出走
YFRは、来大会からEVマシンでの挑戦を公言しています。ICV最後の挑戦となったこの2022年大会では、2日目に車検を通過。3日目はスキッドパッド・アクセラレーション・オートクロスでタイムの全競技でタイムを残し、問題なく過ごしてきていました。
最終競技のエンデュランスは5日目に出走予定でした。ところが、YFRのマシンは時間になっても動的エリアにマシンは現れず。他チームは次々と走行を終え、午前のエンデュランス枠の終了が迫ってきます。
そして時間終了が5分前に迫った11時25分、ついにYFRのマシンが動的エリアに登場しました。
駆け足で給油、ドライバー搭乗を済ませると、残り2分のところで無事スタートを切ることができました。
この時、会場には「燃料ポンプのトラブルを修復していた」と伝わっていました。この問題を乗り超えたYFRのメンバーは達成感がこみ上げ、泣き崩れていました。
結果としては、YFRのマシンは15周目に排気系トラブルが発生し完走できずでしたが、大会に掛けるチームの必死さが伝わる出来事となりました。
YFRに訪れていたエンデュランス出走の危機
この時に何が起きていたのか、Yamanashi Formula R&Dの燃料・電装・冷却系担当だった浦野さんに話を聞きました。
5日目、YFRは最後のエンデュランスの備えるべく、朝にプラクティスへ向かいました。しかし走りだそうとしたときにエンジンが停止。再始動もできず、急ピッチで原因探しを始めます。
暖気エリアでエンジン始動を試してみると、燃料ポンプの作動音がせず、燃料系統が機能していないことを見つけます。ピットへ戻りさらに細かく探ると、周辺の電装系に問題はないことから、この時に燃料ポンプが完全に壊れていると判明しました。
この燃料ポンプですが、話を聞くにまずまず古いものだったそう。それゆえか、テストランの頃からたびたびヒューズ切れを起こしており、気になっていた部分ではあったようです。
この時点で、エンデュランスまではあと2時間を切っていました。燃料ポンプをどこからか借りられないか、手分けして他チームのピットを回ります。その中で、最も迅速に対応が進んだ東京都市大学「Mi-Tech Racing」から受け取ることができました。
新しい燃料ポンプを手に入れ戻ると、シートやファイアーウォール担当のメンバーは取り付け準備万端で待っていました。そして猛スピードで組み付けると、再車検を経て、始動チェックではエンジンが一発始動。こうして、エンデュランスへの出走が叶ったわけです。
浦野さんは「この時のことは、”フル稼働すればあんなに速く燃料ポンプ交換ができるんだ!”とメンバーと話しています。この最中の鮮明な記憶はなく、とにかくやるしかないと必死でした」と振り返っています。
この交換劇の裏には、大会運営側や他チームの手厚い対応があったといいます。
燃料ポンプを探すにあたって、大会本部はこのために放送をかけることに同意してくれたそうです。また、様子をうかがっていた大会スタッフは、本来禁止されているピットでのガソリンを抜く作業を許可しました、
他にも、YFRが訪れたチームは、どこも燃料ポンプの提供を快諾してくれたそうです。さっそくポンプを外す手順に取り掛かってくれたそう。誰もがYFRへの協力を惜しみませんでした。
そしてYFRが回ったチームの中で一番迅速な対応が可能だったのが、東京都市大学「Mi-Tech Racing」でした。
「話はあとでいいから」と渡したMi-Tech Racing
Mi-Tech Racingからは、22年度チームリーダーの加賀田さんからお話を聞きました
今回、Mi-Tech Racingは動的への出走ができませんでした。4日目に車検を終え、この5日目はそれぞれが企業ブースを回ったり、エンデュランスを観戦していたと言います。
10時頃に、YFRのメンバーが焦った様子でピットへやってきたそうです。チームリーダーだった加賀田さんは、話を聞くなり「話はあとでいいから、とりあえず持ってっていいよ」と、予備で持ち込んでいた新品を渡したそうです。
この素早い対応によって、YFRはエンデュランス枠終了の5分前に出走することができました。
加賀田さんは「必死に考えて作った車を走らせるのが目標でやってきました。車を走らせたい気持ちはよくわかります。エンデュランス出場という大きな目標に協力できてうれしいです」と話していました。
彼らは順位を争うライバル同士です。しかし、だからこそ互いの気持ちが痛いほどわかり、協力できる。大会運営側の柔軟な対応も含め、学生フォーミュラという競技の暖かい部分が詰まった協力劇だったと思います。
助け合いがいっぱいあることも学生フォーミュラの特徴
YFRも義理は忘れず、この燃料ポンプはちゃんと買い取ったそうです。来年からEVで参戦するYFRですが「来年使わないから」などは一切考えなかったといいます。これも鏡ともいえる対応ですね。
他にもピット内では、多くのチームが助け、助けられてこの大会を戦い抜いてきています。それは、「同じ苦労をしてきた1年間を、ネジ一本で消し飛ばせるものか!」という心の表れようなのです。
彼らの舞台裏、これからも注目していきます!
YFRの出走した大会5日目エンデュランスの様子はこちら
その他の【20回大会あのとき何が】