学生フォーミュラ日本大会2022で気になった出来事を追うこの企画。
今回は、大きく話題となった東京農工大学「TUAT Formula」の大会中のエンジン載せ替えに迫りました。
大会中にもかかわらずまさかのエンジンブロー
この大会で過去最高順位の総合12位を獲得したTUAT Formula。4月中にシェイクダウンを完了したり、大会1日目に車検(ブレーキ試験以外)をクリアするなど、今年の中では順調に進んでいた数少ないチームのひとつでした。
ところが、大会2日目のプラクティス中にエンジンブローが発生。チームはあきらめることなく、学校まで帰ってのエンジン載せ替えを決行します。徹夜作業で予備のエンジンと交換すると、3日目の午後にはエコパに戻り、マシンが走行開始。スキッドパッド、そしてオートクロスでタイムを残したことで、エンデュランスの出走権も手に入れました。
この裏側を、2022年度チームリーダーの吉田さんと23年度チームリーダーの今さんに聴きました。
エンジン交換の一部始終
2日目の10時にはブレーキ試験を通過したTUAT Formula。異常が発生したのは、午前の日程も終わりそうな時だったといいます。
プラクティスを走っていると、マシンから異音が発生し赤旗が振られ、マシンを停めます。当初は部品が落ちたのかと推測していたそうですが、午後に暖気エリアでチェックすると、エンジン由来の異音だと発覚しました。ホンダマイスタークラブの方の助言を得つつチームピットで分解調査すると、オイルフィルターに金属片が見つかりました。この時点で「このエンジンは使えない」と判断されます。
今年、チームは予備のエンジンを大会会場に持ってきていませんでした。そのため、同型のエンジンを使う他チームに予備エンジンを借りることも検討したそうです。ただ、場所や設備の面から現実的ではないとされました。
こうして「学校に戻って載せ替えをする」決断が下されました。ちなみに、所有している予備エンジンは3年前にオーバーホールはされているものの、6年も間火を入れたことがないものだったそうです。
パワートレイン専門のメンバー8人とマシンは、17時過ぎに掛川を出発。21時に学校へ到着すると、そこにはOBが集結していました。
まずは補器類を着脱し、ブローしたエンジンが車体を離れたころには0時を迎えていました。カムシャフトを載せ替え、エンジンの調整を有識のOBが一任しメンバーは休息をとるなどし作業は進み、3時にエンジンが載ります。さらに吸排気を急ピッチで取り付けます。
そして7時半、セルを回すと、6年間休眠していたエンジンはなんと1発で始動します。ガレージ内は歓喜に包まれ、「よし!行こう!」の一声が上がります。
8時に学校を出発し12時にエコパ着。再車検を1発、騒音ももちろん1発で通過します。ここからはご存じの通り、スキッドパッド終了10分前に間に合い走行、オートクロスも走行しエンデュランスまで完走。なんと最後までエンジンにトラブルはほとんど起こらず、スワップ作業は大成功となりました。
その後のエンデュランスのようすはこちら
エンジン交換には多くの人が携わった
エンジンブローが発覚したとき、今さんはチーム内の雰囲気を「2日目は雨が降り、空に雲がかかっていましたが、そのような感じでした」と表現してくれました。エンジン担当のメンバーがトラブルの重大さを確認し戦慄していると、他メンバーもそれを察して不安になっていったそうです。
大学に戻った時、ガレージにチームOBが集まっていたのを見て「感動しました」と話してくれました。チームメンバーを休ませ作業を手伝ってくれるなど、OBは最高に活躍して、一方では知識も活用し動いてくれたといいます。実働してくれたOBだけではなく、大会会場でエンジンを確認してくれたOBやホンダマイスタークラブの方々の協力もあり、このスワップは実現したと言えます。
また、6年間眠っていたエンジンが掛かったことに対しては「かかるんだ!と驚いた」そうです。「8時には出発しないといけない焦りや、使えるのかという不安がありましたが、無事かかった時はめちゃくちゃ嬉しかったです。感謝しかありません」
ちなみに予備エンジンですが、特段良い状態で保管していたわけではなかったようです。ガレージの隅に布を掛けられた状態で置いてあり、時には製作時の治具などで使われていたそうです。それだけに、一発始動した当時の驚きの大きさが話していて伝わってきました。
このエンジン交換は全チームメンバーで成し遂げた
吉田さんは、エンジン交換をしてエンデュランスまで走り切ったことは、チームメンバー全員によるものだと力説します。
「大会会場に残っていたメンバーは、3日目の予定や動きを考えてくれていました。再車検の予約もしてくれました」
エンデュランスの実況でもあったように、マシンが戻ってきた後もメンバーはそれぞれが役割をもって動いていました。「みんなが役割をわかってくれていました。チームとしての動きは良かったです」と振り返っていました。
また、TUAT Formulaが力を入れていた技術車検の準備も、この大会では功を奏しました。
「もし1日目に技術車検をクリアしてなかったら、もし2日目にプラクティス走行をしていなかったら。このことは大きかったと思います。大会1週間前からチーム全員で車検の練習をしてきました。そのために走行時間も削っています」
入念な車検対策をし初日、2日目を順調に過ごせたからこそ、ギリギリ間に合うタイミングでエンジンブローが起きたのです。
「もし遅れていたら、ブローはスキッドパッド中などに起きていたと思います」
歴史に残る作業
この絶技は、必ず語り継がれる偉業となるでしょう。本番中にエンジンを載せ替えただけではなく、完璧な作業で欠陥がなく大会を走り終えたこと。そのうえでチーム過去最高順位を塗り替えたのですから。
試走会の頃から楽しそうな雰囲気を醸し出し、”ワンチーム”だったTUAT Formula。このチーム力、団結力の高さは、多くのチームに与えるものがあるでしょう。
東京農工大学TUAT Formulaも出走した大会5日目 午前のレポートはこちら↓