学生フォーミュラ、聞いたことがあるでしょうか?
実は世界的な競技ですが、残念ながら日本での知名度は高くありません。
一体どのようなものなのでしょうか?解説していきます。
どのような競技?
学生フォーミュラは、一言にまとめると「大学生や専門学生がマシンをイチから設計、製作して、マシンの速さ、チーム力を競い合う」そんな活動です。
競技自体は、1981年にアメリカで誕生しました。世界的には「フォーミュラSAE」(Formula SAE、F-SAE)という名前で、欧米やオーストラリア、アジアなど至る場所で競技会が行われています。
日本では「学生フォーミュラ(通称:学F)」の名で2001年から動き始め、2003年から日本大会が開催され始めました。2023年で第21回を数える、世界的に見ても歴史が古い大会です。
国内には約70の学校にチームがあります。北は北海道、南は九州にまでチームがあります。大学だけではなく、専門学校や高専にもチームがあったりします。
作られるマシンは、上のような小さなフォーミュラカーという見た目です。最大700ccのバイク用エンジンを積み、金属製のパイプフレーム、カーボンやFRP製のエアロをまとったマシンになっています。
マシンは1年かけて作り上げられ、例年9月にある日本大会でマシンの速さ、製作過程などを競います。
完全にイチから作り上げられる
マシンは、すべてが学生の手によって企画、設計され、作り上げられます。高度な部品を除いて、有識者の手が加わることはありません。
活動は、まず設計することから始まります。まずはマシンの方向性「コンセプト」を決めるところから。その後、設計計算、強度計算を行いマシンを形作り、3Dのモデリングソフトで細かい形状を煮詰めます。手法はさながら普通の市販車と同じです。
そして製作。金属を切って、溶接したり、カーボンでエアロを形作ったりしながら、フレーム、外装、シートまでもが手作りで作られます。中にはレーシングカー同様の装備を自作するチームもあります。
エンジンや電気モーター、バッテリーなどはメーカーから提供してもらう場合が多いです。また、サスペンションやラジエーターなどは設計のもと外注したりします。タイヤや
サスペンションなど、中には学生フォーミュラ専用設計の部品が生産されていることもあったりします。
製作には約4か月ほどかかります。例年3、4月にマシンは初走行(シェイクダウン)を迎えますが、大会ギリギリで何とか間に合う場合もあります。
活動の締めくくり、大会
マシンが完成したら、テストランを行い、最後に大会に参加します。多くのチームは日本大会に参加しますが、中には海外の大会に遠征するチームも存在します。
日本大会は、愛知県常滑市の「アイチスカイエキスポ」の多目的広場にて、9月初旬に行われます。6日間の日程で開催され、海外の学校の参加もあります。ほかに現地ではTVの撮影だったり、企業の展示もあります。(2022年までは静岡県 小笠騒動総合運動場エコパの駐車場だった)
大会の審査(競技)は大きく静的審査、動的審査に分かれ、計8個の審査項目があります。意外に思われるかもしれませんが、走行以外の審査もあるのです。まさにものづくり全体を評価する大会となっています。
静的審査では、チームメンバーの能力が主に問われます。設計の工夫や、自分たちのマシンの魅力を伝える能力、製作にかかった費用の正確性など、1エンジニアとしてのやり方に関して審査する要素が強いです。
動的審査では、シンプルにマシンの速さを競います。加速、旋回の速さ、それらが複合したコースなどです。当然ながら、速さがあれば上位を目指せます。ドライバーの腕も必要になってきます。一方で最終競技のエンデュランスでは、マシンの信頼性、すなわち壊れないことも大事になってきます。安定して20周を走り切れるか、高得点奪取のカギになります。
これらの審査での得点を集計し、もっとも高得点の学校が総合優勝となります。
1年間の製作、設計の集大成。だから最後にあるエンデュランス、そしてオートクロスの上位6台で行るエンデュランス決勝「ファイナル6」は特に盛り上がります。感極まってしまう学生は少なくありません。
コロナ禍により2020年と2021年の現地大会は最終的に中止になってしまいましたが、2022年からはついに開催が叶いました。
2023年は、前年に圧倒優勝を収めた京都工芸繊維大学が連覇を達成、国内最多タイの4勝目を挙げました。EVクラスでは、4輪独立モーターを国内で初めて装備した名古屋大学が制覇しています。コロナ禍で大きく落ち込んでいた国内チームですが、今年はかなり勢いを取り戻してきた様子です。また、推進されているEVクラスは台数増加、レベルも前述の名古屋大が総合優勝に近づくなど、勢いを増しています。
クラスはエンジンと電気の2部門!
学生フォーミュラにはエンジンの「ICVクラス」と、電気で走る「EVクラス」があります。両方が同じ舞台で争い総合優勝を狙うほか、それぞれにクラス優勝もあります。
ICVクラスでは、主にバイクのエンジンが使われます。ホンダ製・ヤマハ製・スズキ製・カワサキ製だったり、単気筒・2気筒・4気筒、排気量も300cc~700cc程度まで様々です。構造の単純さから軽くできたり、トラブルが比較的少ないのが強みです。
マシンの開発状況ははかなり熟してきており、上位勢の争いはかなりハイレベルです。タイムは拮抗しており、少しの要素が勝負を決する様相になってきています。
EVクラスは、日本では2012年から新設されたクラスです。モーターは直流、交流のどちらも選べます。また、バッテリーの種類も豊富です。技術力がいるクラスではありますが、4輪駆動やトルクコントロールなど、多くの開発可能性を秘めています。
2023年はエ、初めてEVクラスのエントリー比率が3割に到達しました。年を追うごとに、アイデアが増え、熾烈な争いとなっています。
ちなみに、EVクラスのチームは未だに総合優勝をしたことがありません。ただ2023年に名古屋大学がかなり近いところまで行きました。発展性の高さから、EVの総合優勝はもうすぐそこと言われています。
さらにある、学生フォーミュラの魅力
マシンを作り、大会で走る。それだけの活動ではありません。ものづくりだけでは終わらない魅力が存在します。
【プロによる勉強会がある】
学生フォーミュラの製作には専門的な知識が必要です。学生たちがそれを得るために、度々勉強会が開催されます。主催は自動車技術会や自動車メーカーのため、講師はもちろんその手のプロです。大学では学べない内容がたくさんです。
【あのマシンを運転できる】
学生の活動ですから、競技のドライバーも学生が担当します。つまり、学生フォーミュラチームに参加すれば、だれでもあのマシンを運転できる可能性があるんです。
大会では、速さを考慮してレーシングカート経験者の学生が乗る場合が多いですが、シェイクダウンや「試走会」と呼ばれるテスト走行の機会があるので、そこで運転ができるかもしれません。人生でフォーミュラマシンを運転できる機会はここ以外ないそうそうあるものではありません。
【社会人としてのマナーを一足先に学べる】
チームは必ずスポンサー、支援企業を持っています。その企業とは通常のスポンサーと同じで、メール連絡や会社周り、報告会などをし丁重に対応します。その中で、チームメンバーらは社会での礼儀作法を学びます。例えばメールの文面だったり、名刺の渡し方だったりです。
これは、普通の学校生活を送っていたらなかなか学べないこと。チームがイチ企業のように振る舞う学生フォーミュラならではです。
【業界からの注目度高し!就職に有利】
少しメタな話になるのですが、かなり実践的な学びを得られるこの活動を経験した学生は、就職活動で一目置かれる存在になります。聞いた話ですが、数度の留年を跳ね返すほどのネームバリューをもつのだとか…
学生フォーミュラは一般の知名度は低いですが、特に自動車業界での知名度は高い活動です。大学へ入学し、そのあとの将来を考えると、魅力的な部活でもあります。
ぜひ注目、学生フォーミュラ!
学生フォーミュラは、前述の通り9月に日本大会が開催されますが、1年を通してチームは活動しています。製作だったり、テストランだったり、SNSやチームブログに投稿される活動の様子を追っても楽しいものがあります。
当サイト、ガクセイフォーミュラジェーピーでは、学F初の専門サイトとしてチームの動向や物語を常に追っていきます。これまでは草派の陰に隠れてしまっていた学生フォーミュラという競技の内部を広め、競技全体を広く周知していければと思っています。
また、下記の学生フォーミュラ公式サイトやYouTubeにて、競技の詳細や動画が見られます。ぜひ走行している様子などを除いてみてください。
公式サイト(https://www.jsae.or.jp/formula/jp/)
公式YouTube(https://www.youtube.com/user/StudentFormulaJapan/featured)
2023年大会ダイジェスト(https://www.youtube.com/watch?v=VsxAeZjlk3A)
今後も唯一の学生フォーミュラ専門サイトとして、一般の方から参加する学生まで、見ごたえのある情報を提供していきますので、よろしくお願いします。
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