このページでは、学生フォーミュラのマシンについて解説していきたいと思います。
主にレギュレーションの基づいて、近年の様子もあわせて説明していきます!
車体
まずは、マシンの全体についてです。
学生フォーミュラの車両は、オープンホイール(フォーミュラカー)でないといけません。つまりは、タイヤが上や横から見える状態でないといけません。
サイズとしては、長さが2.5~3m、幅が1.3m、高さは1.2mほどのマシンが多いです。なので、軽自動車より一回り小さいくらいです。日本大会のコースは世界に比べて入り組んだコース設定となっていて、そのため車体サイズは比較的小さくなりがちです。
重さは200kg前後、だいたいトラ🐯と同じぐらいらしいです。軽いほど動きが軽快になるため、車重は特に重要視されます。200kgを切ることがひとつの目標になります。
次に、フレーム、骨格についてです。学生フォーミュラにはパイプフレーム(スペースフレーム)とカーボンモノコックフレームの2種類があります。パイプフレームは一般の車やレーシングカーで採用されることは少ないですが、学生フォーミュラは9割のマシンが採用しています。
理由は、パイプフレームの方が簡単に作れるからです。鉄パイプと溶接機さえあれば作れてしまうので、設備が限られる学生にはもってこいなのです。それでも、何十ヶ所も溶接しなければならないため、大変には変わりありません。
一方で、カーボンモノコックフレームには大掛かりな設備と手間が必要になります。モノコックは陶器を想像してもらえれば近いと思います。まず型を作り、そこにカーボンシートを貼り重ね、専用の窯で焼いて作られます。手間と技術が要りますし、何より専用の巨大な焼き窯が必須になります。このハードルの高さから、2022年の採用チームは69チーム中たったの5チームだけでした。
モノコックフレームの利点は、その堅さにあります。レーシングカーではマシン全体のよじれなさ(剛性)が大事になるので、その点では欠かせないメリットがあります。
2022年、大阪大学は新たにフロント部のみをモノコック化しました。半分だけ、という手間とコストを抑えた手法もあります。
エンジン・モーター
- エンジン
ICV(エンジン)クラスで使われるエンジンは、4サイクルのガソリンエンジンでないといけません。排気量は710ccまでで、2サイクルやハイブリッド、ディーゼルエンジンは禁止されています。
使われるエンジンは基本的にバイク用のエンジンです。気筒数、排気量は様々で、そのチームのマシンの特色によって決められます。
気筒数 | 主なエンジン名(グレードは省略) |
単気筒 | ヤマハYZ450、ホンダCRF450、KTM 690、など |
2気筒 | ヤマハMT-07、スズキV-Strome、カワサキER650、ホンダCB500 |
4気筒 | ホンダCBR600、カワサキZX-6R、スズキGSX-R600、ヤマハYZF-R6など |
マシンを軽くするなら単気筒、パワーを出すなら4気筒、バランスを求めるなら2気筒、といった傾向があります。例えば、加速性能を武器に戦う千葉大学のマシンは4気筒のエンジンを選んでいますし、先ほど画像を上げた2022年最軽量の名古屋工業大学は単気筒エンジンを選択しています。
- EVモーター
EVクラスの動力源(パワーユニット)は、モーターとインバーターです。バッテリーからくる直流電流をインバーターで交流に変換しモーターに届け、モーターが動力を生む仕組みです。
このモーター/インバーターは企業から供与されます。ホンダ、日産、三菱が市販車用を、デンソー、ヤマハは学生フォーミュラ専用のモーターを用意しています。
基本的にはドライバー後方に1基のモーターが詰まれる方式のマシンがほとんどです。マシン横もしくは後ろににバッテリーを配置し、インバーター/モーターを動かし、リア2輪で走る構造が主流です。
一方で名古屋大学は、4輪それぞれにモーターを配置する4輪駆動のマシンに挑戦しています。さながら高度な市販車のように4輪のモーターの力具合をプログラムし、旋回性能を高めるという難しいシステムに挑戦しています。
エアロ
参加チームの3割ほどは、マシンにエアロを装着しています。フロントウィング、リアウィングを始め、サイドウィングやディフューザー、様々なフラップを付けるマシンもあります。
エアロに使われる素材は、一般的なレーシングカーと同じカーボン(CPRP)や繊維強化プラスチック(GFRP)などです。カーボンについて細かく述べると、主流は学生らで作りやすいウェットカーボンです。有力チームの中には、焼き窯などの設備が必要になるドライカーボンを使うチームもありますが、箇所ごとに使い分けるパターンが大半です。
エアロの話をするなら、京都大学が欠かせません。このチームは、例年トップレベルな完成度のエアロマシンを持ち込んできます。2022年はバネ下にエアロの多くを配置する特殊なマシンを作り上げてきました。また、エアロのためにリアサスペンションの構造も工夫されています。
ちなみに、学生フォーミュラの中では常に「エアロが必要か否か」の論争があります。日本大会の周回コースは速度域が低いため、大きなダウンフォースが出ません。このため、エアロを取っ払って軽くし、そして足回りのセッティングに費やしたほうがいい、との考え方が半分です。
タイヤ・ホイール
学生フォーミュラのタイヤは、フージャー(Hoosier)というメーカーの専用スリックタイヤが主に使われます。
フージャータイヤホームページ(Series Spec → Formula SAE参照)
ちなみに、「16.0 x 6.0-10」というサイズ表記は、「タイヤ高さ16インチ × タイヤ幅6インチ – ホイールサイズ10インチ」と読み取ります。
つまり、フージャー製のタイヤは幅15~20cmです。軽自動車から小型車くらいのサイズですね。ちなみに、ホイールサイズは10インチ用と13インチ用があり、ウェット路面用の溝付きタイヤもラインナップされています。
他には、グッドイヤーとコンチネンタルが、それぞれ専用13インチタイヤを用意しています。2022年の使用チームはどちらも1チームのみでした。
また、市販車用タイヤを使うチームもあります。ただし、市販車用タイヤだと軽い学生フォーミュラには堅すぎるため難しいという話があり、数チームに留まっています。値段からか、ダンロップ ディレッツアが人気です。
ホイールについては、上記のフージャータイヤが10インチと13インチ用のみのラインナップということから、10インチと13インチホイールが大多数です。
専用ホイールを用意するのはOZホイールとエンケイです。OZホイールは10と13インチの両方、材質はマグネシウムとアルミ、さらにセンターロック式と4穴の取り付け方法を選べます。エンケイは10インチのみです。
他には、KAIZERやBRAID、RAYSなどが主流です。WATANABE、WORK、Worksbellなどを使用するチームもあります。
近年は10インチを選ぶチームが増えてきています。理由は、マシンを大幅に軽量化できるからです。ただ、足回りの設計をコンパクトに設計したり、タイヤの熱問題が発生したりするので、難しいところです。
コックピット(運転席)
最後に、ドライバーが座る空間を見ていきましょう。
まず、シートはほとんどのチームが自作で、FRPから作ります。どうしたらドライバーが心地よく運転できるかを考え、実際のドライバーから型をとって作られます。
インパネはチームの個性や、電子工作の技術が見えます。ちなみに、ステアリングホイール(ハンドル)を自作するチームも多くあります。
また、シフトレバーに目を向けると、シーケンシャルシフトとパドルシフトがあります。
シーケンシャルシフトは、レバーを後ろに倒すとギアアップ、前に倒すとギアダウン。バイクのギアは元々シーケンシャルなので、学生フォーミュラ会の中では一番シンプルで作りやすいギアシステムです。
もう一つ、パドルシフトがあります。近年のモータースポーツや市販車にも採用が多い、ハンドルの左右に2つのパドル(プレート)があり、それでシフトアップするものです。ワイヤーでギアボックスまでつなげる機械式タイプもあれば、電気信号を送ってギアボックスはエア圧や電動で動かすリモートタイプもあります。
もし解説してほしい項目があれば、コメントまで⇓
⇒審査解説
⇒学生フォーミュラの1年
⇒チーム一覧
⇐「概要編」